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診療科・部門

母子はぐくみセンター

母子感染

手稲渓仁会病院では、母子感染の専門家が母子感染の診断や治療にあたり、予防にも積極的に取り組んでいます。
母子感染で有名なのは、TORCH症候群です。TORCHとは、Toxoplasma、Others (梅毒、パルボウイルスB19など)、 Rubella(風疹)、Cytomegalovirus、Herpes simplex virusの頭文字です。
日本での出生児数は年間、後遺症をきたす先天性サイトメガロウイルス感染が1000人、先天性トキソプラズマ感染100~200人、先天性ヘルペス感染/新生児ヘルペス100人、先天梅毒20~50人、先天性パルボウイルスB19感染10人(流行年は100人)、先天性風疹感染が0~5人です。

ここでは、トキソプラズマとサイトメガロウイルスについて解説します。トキソプラズマ、サイトメガロウイルスやパルボウイルスB19の妊娠管理マニュアル、妊婦感染予防パンフレット等は、http://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/index.htmlからダウンロード可能ですので、ぜひ利用して下さい。

妊娠中初めてトキソプラズマに感染すると胎盤を経由して胎児に感染し、水頭症、脳内石灰化、小頭症、網脈絡膜炎、小眼球症、精神神経・運動障害、肝脾腫などの先天性トキソプラズマ症を起こします。
ヒトには、感染動物の筋肉に含まれるシストや、ネコ科動物の糞便中のオーシストに汚染された土、食物や水を介して経口感染します。

 

 

日本人妊婦の抗体保有率は、およそ4%です。トキソプラズマ妊婦スクリーニング方法を図に示します。妊娠初期にトキソプラズマIgGを測定し、IgG陰性者は妊娠中の初感染予防のための教育と啓発を受けます。トキソプラズマの妊娠中の経口感染の予防法として、妊娠中は以下を心がけてください。① 生肉、加熱不十分肉を決して食べない。② 海外旅行(中欧)では、肉料理をさける。③ ガーデニングは手袋をする。④ 野菜や果実の土をよく洗う。⑤ 野良猫や子猫の糞に注意する。

 

 

IgG陽性妊婦はIgMを測定します。IgM陽性は初感染疑いとして扱い、胎児の超音波検査と胎児感染予防の目的でスピラマイシン治療(900万国際単位/日・分3を分娩まで)を行います。トキソプラズマIgM陽性妊婦のうち、およそ7割はpersistent IgMないし偽陽性で本当の妊娠中の初感染ではありません。IgG avidity(保険未収載)は必須ではありませんが、希望があれば自費で測定できます。羊水PCR検査で陽性の場合、スルファジアジン(4g/日)とピリメタミン(50 mg/日)、および葉酸(5~10 mg/日)の治療を併用します。先天性感染が疑われる新生児に対しては、分娩時羊水・血液・髄液PCR(保険未収載)、臍帯血IgM、眼底、頭部画像検査を実施します。先天性感染と診断され、児に症状がある場合には、スルファジアジンとピリメタミンによる治療を1年間行います。

 

 

私たちは、2005年からトキソプラズマIgG、IgM陽性の妊婦にはIgG avidity検査を行い、スピラマイシン等の治療を行ってきました。これまで胎内感染は出生児7人に認められましたが、1人を除いて全員が健康に成長し発達しています。ご心配であれば、いつでも受診してください。検査により適切に診断し、必要な治療を行います。

次に、サイトメガロウイルスですが、日本では新生児300人に1人が先天性感染を起こし、1000人に1人が症候性感染児として出生しています。日本人妊婦の抗体保有率は約70%です。初感染では母体は無症状であることが多く、時に感冒様症状や発熱を伴います。

 

 

CMV抗体陰性の妊婦では妊娠中に1~2%が初感染を起こし、うち30~40%が胎児感染にいたります。CMV抗体陽性の妊婦では、妊娠中のCMV再感染や潜伏ウイルスの再活性化によって、0.5~1%の割合で胎児感染を起こします。胎児感染の数%が死産や早期新生児死亡に至ります。先天性CMV感染の20~30%が症候性、70~80%が無症候性感染児として出生します。症候性感染児の約90%に精神遅滞、運動障害、難聴などの後遺症が、無症候性感染児でも約10%に難聴などの後遺症が残ります。

 

 

妊婦の管理法と母子感染予防についてですが、まずCMV感染予防について全妊婦にチラシを使いて啓発します。多くの妊婦はCMVについて、妊娠中の感染によって胎児に影響が出ることについて認識が乏しいです。症状、感染経路、児への影響を説明した上で、CMVを含んでいる可能性のある小児の唾液や尿との接触をなるべく避けるよう、また十分な手指衛生を心がけるように教育し啓発します。IgG陰性の妊婦は、妊娠34~35週にCMV IgGを再検し、陽性化があれば初感染と診断されます。一方で、ターゲットスクリーニングとして、先天性CMV感染のハイリスクである超音波異常、切迫早産、早産、胎児発育不全、発熱・感冒症状を認める妊婦では、CMV IgGとIgMを測定します。IgG陽性であれば新生児尿CMV核酸検査を保険適用で行います。新生児聴覚スクリーニングでリファー(要再検)となった場合、生後3週以内に産科施設で尿CMV核酸検査を行います。リファーになる新生児の5~6%が、先天性CMV感染になります。

 

 

先天性CMV感染が疑われる新生児に対して、尿CMV核酸検査および血液IgM、聴性脳幹反応、眼底、頭部画像などの検査を行います。生後3週以内の新生児尿核酸検査が陽性の時、先天性CMV感染と診断され、症候性感染児には、抗ウイルス薬治療を行います。
最近、当院の山田らは、症候性感染の出生児は抗ウイルス薬治療によって2割が軽度の後遺症で、また4割が正常に発達することを発表しました(J Infect Chemother 2020)。先天性感染児の早期の診断と治療開始によって、後遺症が減少することが期待されています。

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