リハビリ・センターブログ 目次
2019/06/02~ 直立二足歩行 (1)~(3)
2019/06/08~ 誤嚥の仕組みと予防 (1)~(5)
2019/07/01~ リハビリ・センターについて (1)~(2)
2019/07/03~ 宇宙飛行士の廃用性筋萎縮 (1)~(3)
2019/07/16~ 怪文書
2019/07/18~ 小林多喜二の脚長差
2019/07/29~ 音階について (1)~(3)
2019/08/14~ 亀の統計解析 (1)~(4)
2019/08/30~ 暦のこと (1)~(6)
2019/09/08~ エクセルで自在なグラフを描く・裏技
2020/07/06~ エクセルで自在なグラフを描く・その2
2020/07/22~ 超漢字検索のこと
2020/08/07~ トンパ文字のこと
2020/08/16~ TRONとは何か?
2020/08/18~ 超漢字のこと
2020/08/29~ 新型コロナ・ウィルス検査のこと
2020/09/04~ 感度と特異度の視覚的理解

センター長  2020/12/31(Thu) 00:00:00
感度と特異度の視覚的理解
ある疾患が有るか無いか診断を確定させるために血液検査等で陽性と陰性を判定する場合があります。前稿では検査の「感度」と「特異度」、さらに「検査前確率」が重要であることを示しました。この稿は、それを視覚的に理解することを目的とします。

ある架空の疾患と検査を考えます。その検査では0~14までの連続数値として結果が出るものとします。図の横軸がその数値の大きさを示します。縦軸は、一定人数に対して検査を施行した時に、横軸で示す検査値になった人の数です。この検査では疾患群も健常群も正規分布するとします(図1)。



このような図では、それぞれの群の面積が、その群の総人数を示します。疾患群(赤実線)は平均値(μ)が9.0で、標準偏差(σ)が0.5の正規分布です。これは疾患群について検査を行った場合、多くの人が9.0前後の値を示すことを意味します。標準偏差が0.5というのは、9.0±0.5、すなわち8.5~9.5の間に68.3%の人が含まれるということです。山の形の分布の山頂は人数が一番多い数値の場所であり、そこが平均値です。標準偏差は山麓部の広がり具合を示します。この図のように尖った山では標準偏差が小さく、データが平均値の周りに密集します。疾患が無い健常者に同じ検査をした時は、平均値が5.0で標準偏差が0.5の正規分布(青実線)をするとします。

(参考)
μ±1σ 68.3%
μ±2σ 95.4%
μ±3σ 99.7%

検査値により、疾患で有ると言えるか(=陽性)、疾患で無いと言えるか(=陰性)を区別する基準が必要です。この値のことを「カットオフ値」と言います。図1の場合、陽性と陰性を区別するためのカットオフ値を設定することは容易です。この図ではカットオフ値を健常群(青山)と疾患群(赤山)の中間である7.0にすると、陽性と陰性を完全に区別できます。青山と赤山の検査結果に重複領域が無いからです。しかしながら、通常は、このように都合の良いことは生じません。どうしても検査値には重複する領域が出来てしまいます。



図2に健常群と疾患群で両者とも標準偏差が1.0の場合を示します。それぞれの平均値は図1と同じですが山の形が異なっています。標準偏差の2乗のことを「分散」と言います。これが大きいということは、山麓部が広がっていることを意味し「分散が大きい」と表現します。平均値が図1と同じであっても分散が異なると違った世界が生じます。この場合、青山と赤山は検査値7.0で交わります。数値が重複する範囲には疾患者と健常者が混在しています。この場合でも、陰性と陽性を決めるカットオフ値をどこかに決めなければいけません。図3のようにα、β、γの3つの値を考えてみます。





例として、値が一番低いαを考えてみます(図4)。疾患群(赤実線)のうち、αより大きな結果となった人(A)は、疾患があり、なおかつ検査も陽性という正しい結果ですから「真の陽性(A)」です。疾患群にはαより小さくなる人(B)も存在します。これらの人は、疾患が有るのに陰性と判定されてしまいます。間違った結果ですから「偽陰性(B)」です。疾患群の総数は(A+B)です。この検査の「感度」はA/(A+B)で示されます。この検査で正しく疾患を選び出すことができる確率のことです。αのようにカットオフ値が低い場合は「真の陽性者(A)」が多くなり、間違って陰性と判定してしまう「偽陰性(B)」は減ります。疾患群の総数は(A+B)と一定ですから、感度「A/(A+B)」は高くなります。αのようにカットオフ値を低くすると、疾患を見出す確率が大きくなり、疾患を見落とす確率が小さくなります。

一方、健常群(青実線)の中でも、αより大きな検査値となる人が存在します(C)。これらの人は「陽性」と判定されますが「健常群」です。これは間違った結果なので「偽陽性(C)」です。検査値がαより小さな人は陰性です(D)。この判定は正しいので「真の陰性(D)」です。特異度はD/(C+D)で示されます。健常群の数(D+C)は一定なので、αのようにカットオフ値を低くすると「真の陰性(D)」が減ります。従って特異度「(D/(D+C)」は低くなります。

以上をまとめると、αのようにカットオフ値を低くすると、感度が高くなり、疾患を見落とす確率は小さくなります。その一方で、特異度が低くなり、偽陽性が増えます。すなわち、疾患で無い人を疾患とみなしてしまいます。例えとしては適切とは言えませんが「誤認逮捕」が増えます。



図5のようにカットオフ値として高い方のγを採用すると、この逆になります。すなわち感度が小さくなり、特異度が大きくなります。同じ例えで言うと、誤認逮捕は減りますが、真犯人を見落とすことが多くなります。以上より、感度と特異度はトレードオフ(二律背反)である仕組みが分かると思います。これらの長所・短所を考えると、カットオフ値としては、その中間にあるβを採用するのが無難と言うことでしょう(図3参照)。

前稿で示したように陽性適中率はA/(A+C)で、陰性適中率はD/(B+D)です。同じ「感度と特異度」の検査であっても、「検査前確率」を大きくすることで陽性適中率を高くできることを前稿で示しました。この事を視覚的に示します。検査前確率を3段階で設定してみます。理解の助けとなるように前稿の設問の数値を当てはめてみますが、次に示していく図では必ずしも面積と数値は比例しません。変化していく過程を理解できればと思います。検査は感度90%、特異度80%です。便宜上、カットオフ値を7.2とします。3つの場合とも、健常群と疾患群の合計人数は10,000人です。検査前確率が高くなるということは、この10,000人のうち疾患の人の割合が増えるということです。このことで「真の陽性者」が増えて陽性適中率が大きくなります。

(1) 検査前確率が0.1%の場合(図6)
健常群9,990人
疾患群10人



(2) 検査前確率が5%の場合(図7)
健常群9,500人
疾患群500人



(3) 検査前確率が20%の場合(図8)
健常群8,000人
疾患群2,000人



センター長  2020/09/04(Fri) 14:50:18
新型コロナ・ウィルス検査のこと
新型コロナ・ウィルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)に関して、「希望者全員にPCR検査をすべき」との論調がテレビのワイドショーで散見されます。2020年8月9日の産経新聞によると東京都世田谷区が「何時でも、誰でも、何度でも」という世田谷方式で複数の検体を同一試料にまとめて検査する方針にしたようです。これは武漢でなされた方法と同じです。この稿では平成28年(2016年)第110回医師国家試験問題を題材として、症状のない人に検査する意義を考えてみます。この設問は「感度90%の検査」をする設定です。感度90%の検査で「陽性」と判定された場合、その病気である確率は「90%だ!」と考えてしまいませんか? 素人なら直感的にそう考えても不思議ではありません。ところが検査には「感度」の他に「特異度」という要因があります。さらに「検査前確率」がもっと重要です。そのため「偽陽性」とか「偽陰性」という問題が生じます。結論を先に書いてしまうと、次に示す設問の場合、その検査で「陽性」と判定が出ても、その病気である確率は「0.45%」にしかなりません。直感的な「90%」と実際の「0.45%」では、あまりにもギャップが大きすぎます。この違いはどうして生じるのでしょうか?

[設問]--------------------------------------------
ある疾患の有病率が0.1%であるとします。症状が何もないのに(ただ不安になって)、ある検査を受けたとします。その検査は「感度が90%」、「特異度が80%」です。この検査で判定が「陽性」と出た場合に、その人が本当に罹患している確率は何%あるでしょうか?
(補足)これは正しく陽性である確率すなわち「陽性適中率」を求める設問です。医師国家試験では検査後確率を求める設問となっています。

図1


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ここで示した「有病率」については後で触れますが、正確に表現すると「検査前確率」です。有病率0.1%とは例えば人口が1億人だとすると、10万人が発症していることです。この設問では「症状が何もない場合」という設定ですが、結果が「真の陽性」だったとしましょう。「真の陽性」とは体の中に原因となる菌やウィルスがいたということを示します。しかしながら「発症しているかどうか」は別問題です。そもそも症状が無ければ「発症している」とは言えません。この場合は単なる「無症候性保菌者(保因者)」という事です。これは新型コロナ感染について、特に注意すべき点です。「無症候性保菌者である」ということの他に、すでに体がウィルスを退治してしまった後で、極端に言うと「ウィルスの死骸」を感知しているかもしれません。ウィルスは死んでも一定期間はそのDNAは残るでしょう。

この問題を解くには「感度」と「特異度」の意味を知る必要があります。表を用いて説明します。表の縦(列)は、実際に「疾患が有る列」か「疾患が無い列」かを示します。横(行)は、検査で「陽性となる行」か「陰性になる行」かを示します。2×2の4通り(A~D)のセル(区画)ができます。



1.「感度90%」の意味
感度90%とは、その疾患に感染している人(A+B)のうち、ちゃんと「陽性である(A)」と結果を出せる確率が90%であるということです「A/(A+B)」。例えば100人の感染者がいたとすると、この検査により90人(90%)が「陽性」と出ます。この陽性という結果は正しいので「真の陽性(A)」です。しかしながら残りの10人(10%)は「陰性」と出てしまいます。この「陰性」と出てしまった結果は間違っています。そのため「偽りの陰性」ということで「偽陰性(B)」と言います。「真の陽性」とは「真陽性」でも構わないのですが、パッと見て「偽陽性」と紛らわしいので、この稿では注意を喚起するために「真の~」と書きます。

2.「特異度80%」の意味
特異度80%とは、その疾患に感染していない人(C+D)のうち、ちゃんと「陰性である(D)」と結果を出せる確率が80%であるということです「D/(C+D)」。例えば100人の非・感染者がいたとすると、80人(80%)が「陰性」と出ます。この陰性という結果は正しいので「真の陰性(D)」です。しかしながら残りの20人(20%)は「陽性」と出てしまいます。「陽性」と出てしまった結果は間違っています。そのため「偽りの陽性」ということで「偽陽性(C)」と言います。

繰り返しになりますが、(1)実際に疾患が有る場合に検査で陽性となるのは「真の陽性(A)」です。疾患があるのに、検査で陰性となってしまうのは間違ってますから「偽陰性(B)」です。感度は「A/(A+B)」として示され、疾患の有る人を正しく陽性と判定する確率を示します。(2)疾患が無い場合、検査で陽性になってしまうのは間違っていますから「偽陽性(C)」です。正しく陰性と判定されるのが「真の陰性(D)」です。特異度は「D/(C+D)」で示され、疾患の無い人を正しく陰性と判断する確率です。

理想的な検査とは、感度が高くて、なおかつ特異度も高い検査です。しかしながら通常は、「感度と特異度」がトレード・オフ(二律背反)の関係にあります。感度を高くしたいとき、すなわち「真の陽性(A)」を増やしたいとき、「偽陽性(C)」も多くなります。偽陽性(C)と真の陰性(D)の合計は一定ですから、「偽陽性(C)」が多いということは、「真の陰性(D)」が少ないという事です。従って「特異度が低い」ということになります。ある検査を組み立てるとき、結果は必ずしも白黒はっきりしているわけではありません。どこかで区切りを付ける必要があります。すなわち、どこかのレベルで妥協する必要があるのです。この境い目を「カット・オフ値」と言います。「感度」と「特異度」のバランスが難しいところですが、このバランスについては次の稿で視覚的に示します。

以上を踏まえて問題を解いていきます。この設問で求めるのは陽性適中率です。陽性適中率は「A/(A+C)」です。これは「陽性」という検査結果が正しい確率です。適合度とか精度とも言われ、「陽性」と判定が出た場合の信頼度を示します。この稿の最後に示しますが、これとは逆の陰性適中率は「D/(B+D)」です。これは陰性と出た場合の信頼度です。有病率(検査前確立)は「(A+B)/ (A+B+C+D)」です。「正確度(正診率)」についてはこの稿では触れませんが「(A+D)/(A+B+C+D)」で示されます。

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(1)検査前確率=0.1%の場合 (感度90%、特異度80%)
設問の設定のごとく、何の症状もないのに(不安だという理由だけで)検査を受ける人が1万人(A~D)いたとします。この感染症の有病率(=検査前確率)は0.1%ですから、この1万人の中に本当の感染者は10人(A+B)しかいません。非・感染者は9,990(C+D)人です。この検査の「感度は90%」ですから、本当の感染者10人のうち9人(90%)が「陽性」と出ます。この9人は「真の陽性」です。本当の感染者10人のうち1人(10%)は「陰性」と出ます(B)。この1人は「偽陰性」です。
一方、非・感染者は9,990人(C+D)でした。この検査の「特異度は80%」ですから、このうちの7,992人 (80%)が「陰性」と出ます(D)。この7,992人は「真の陰性」です。非・感染者9,990人のうち、1,998人 (20%)が「陽性」と出てしまいます(C)。間違った結果ですから、この1、998人は「偽陽性」です。これらを表にすると次のようになります。



この設問で求めたいのは「陽性適中率」です(A/[A+C])。すなわち検査の判定が「陽性」と出た場合に「本当にその病気である確率」は何%あるのか?というものです。「真の陽性者」は9人です(A)。検査で「陽性」と判定されるのは、この「真の陽性者9人」に加えて「偽陽性」の人が1,998人です(C)。従って9÷(9+1998)≒0.0045となります。この設問の解答すなわち陽性適中率は0.45%です。0.45%の確率でしか「真の陽性者」を検出できません。

こんな陽性適中率では全く信頼できない検査という事になります。では実際の臨床場面で、どうすればいいでしょうか? 最初に「有病率=検査前確率」と書きましたが、これは正確ではありません。他に何のチェックもせずに「任意の人」を集めてきた場合は、確かに「有病率=検査前確率」です。従って、この設問のように「何の症状もないのに不安なだけで検査を受けた」という条件なら成立します。ところが通常は何らかの症状があって病院を受診するわけですから、全体の率(有病率)よりも病院を受診する人の集団では、疾患である確率は高くなります。従って「有病率<検査前確率」となります。ここから新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関係してきます。この検査をする前に、別の方法で「対象患者を絞り込む」という作業が重要です。たとえば「37.5℃以上の発熱が数日続いている」とか、「COVID-19が確定した人と濃厚接触がある」とか、「味覚障害や嗅覚(きゅうかく)障害がある」とか含めたとしましょう。このような条件を加味して「検査前確率」が「5%」に上がった場合を計算してみます。これらの条件に合う人が1万人いた場合です。

(2)検査前確率=5%の場合 (感度90%、特異度80%)
検査前確率が5%になりましたから、1万人(A~D)のうち本当の感染者は500人(A+B)で、非・感染者は9,500人(C+D)です。この検査の「感度は90%」ですから、本当の感染者500人のうち450人(90%)が「陽性」と出ます(A)。この450人は「真の陽性」です。本当の感染者500人のうち50人(10%)は「陰性」と出ます(B)。この50人は、本当は陽性なのに間違って陰性と判定されたので「偽陰性」です。
一方、非・感染者は9,500人(C+D)でした。この検査の「特異度は80%」ですから、このうちの7,600人 (80%)が「陰性」と出ます(D)。この7,600人は「真の陰性」です。非・感染者9,500人のうち、1,900人 (20%)が「陽性」と出てしまいます(C)。本当は「陰性」なのに間違って「陽性」と判定されたので、この1,900人は「偽陽性」です。同じように表にすると次のようになります。



求めたいのは、検査の判定が「陽性」と出た場合に、本当にその病気である確率は何%あるのかというものでした。陽性適中率(A/[A+C])を求めるものです。450÷(450+1,900)≒0.1915となります。陽性適中率が19.15%に上がりました。

日本ではCTスキャン検査装置が普及しています。これが他国と異なることでしょう。これで肺炎像が明らかな場合は、新型コロナ感染症の疑いがさらに高くなります。検査前確率がさらに高くなるということです。仮に検査前確率が20%になったとします。このような人が1万人いた場合です。

(3)検査前確率=20%の場合 (感度90%、特異度80%)
検査前確率が20%になりましたから、1万人(A~D)のうち本当の感染者は2,000人(A+B)で、非・感染者は8,000人(C+D)です。この検査の「感度は90%」ですから、本当の感染者2,000人のうち1,800人(90%)が「陽性」と出ます(A)。この1,800人は「真の陽性」です。本当の感染者2,000人のうち200人(10%)は「陰性」と出ます(B)。この200人は「偽陰性」です。
一方、非・感染者は8,000人(C+D)でした。この検査の「特異度は80%」ですから、このうちの6,400人 (80%)が「陰性」と出ます(D)。この6,400人は「真の陰性」です。非・感染者8,000人のうち、1,600人 (20%)が「陽性」と出てしまいます(C)。これは間違った結果ですから、この1,600人は「偽陽性」です。表にすると次のようになります。



求めたいのは、検査の判定が「陽性」と出た場合に、その病気である確率は何%あるのかというものです。陽性適中率(A/[A+C])は1,800÷(1,800+1,600)≒0.5294となります。陽性適中率が52.94%に上がりました。

以上は架空の検査の場合でしたが、このように「感染者を選び出す」という目的のために、「すべての希望者」にPCR検査をするということは意味がありません。偽陽性者ばかりになってしまいます。その結果として医療現場に混乱を引き起こします。ですから疾患として症状のチェックやCT検査などを総合して「検査前確率を高くしておく」という必要があります。

この設問では検査の感度は90%としていました。これは相当に優秀な検査と言えます。現在、新型コロナ・ウィルスの検出に用いられているPCR検査については、「コロナ制圧タスクフォース」というインターネット・サイトによると、感度は70~80%くらい、特異度は99%くらいのようです。特異度が高いのは、断片であっても遺伝子自体の存在を確認するからかもしれません。そこで先ほどの設問を「感度が75%、特異度が99%」に置き換えてみると次のような設問になります。

コロナ制圧タスクフォース
https://www.covid19-taskforce.jp/

[設問]--------------------------------------------
2020年8月の時点で、SARS-CoV-2の保有率(COVID-19の発症率とは異なる)は不明なので、仮に0.1%から計算を始めます。症状が何もないのに(ただ不安になって)、PCR検査を受けたとします。その検査は「感度が75%」、「特異度が99%」です。この検査で判定が「陽性」と出た場合に、その人が罹患している確率は何%でしょうか?
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(1)検査前確率=0.1%と仮定した場合 (感度75%、特異度99%)
何の症状もないのに(不安だという理由だけで)、PCR検査を受ける人が1万人(A~D)がいたとします。この設問の作業仮設として有病率(=検査前確率)を0.1%から始めます。この中に本当の感染者は10人(A+B)しかいません。非・感染者は9,990人(C+D)です。この検査の「感度は75%」ですから、本当の感染者10人のうち7.5人(75%)が「陽性」と出ます(A)。この7.5人は「真の陽性」です。本当の感染者10人のうち2.5人(25%)は「陰性」と出ます(B)。この2.5人は「偽陰性」です。
一方、非・感染者は9,990人(C+D)でした。この検査の「特異度は99%」ですから、このうちの9,890.1人 (99%)が「陰性」と出ます(D)。この9,890.1人は「真の陰性」です。非・感染者9,990人のうち、99.9人 (1%)が「陽性」と出てしまいます(C)。間違った結果ですから、この99.9人は「偽陽性」です。これらを表にすると次のようになります。



この設問で求めたいのは、検査の判定が「陽性」と出た場合に「本当に感染している確率」は何%あるのか?というものでした。「真の陽性者」は7.5人です(A)。検査で「陽性」と判定されるのは、この「真の陽性者7.5人」に加えて「偽陽性者99.9人」です(C)。陽性適中率は7.5÷(7.5+99.9)≒0.0698となります。この設問の解答は6.98%です。あくまでこの計算は検査前確率が0.1%の場合です。現状のCOVID-19とは合致しない可能性がありますが、検査前確率を高める作業をしない場合、低い確率でしか「真の陽性者」を検出できないことを示します。かなりの数の人が偽陽性になります。第2波と考えられる集団の中には症状が軽い人が多いようですが、そもそも「偽陽性」ならばCOVID-19で無いのであり、症状が軽いのは当たり前です。補足しておきますが、何も症状が無い場合でも「COVID-19に感染しても不思議でないような環境にいる人」は検査前確率がもっと高いことになりますから、次の(2)以降の場合に準じます。ただし何をもってリスクが高い環境かというのは判断が難しいところです。

(2)症状チェックなどで検査前確率が5%に上がった場合 (感度75%、特異度99%)
このような条件でPCR検査を受ける人が1万人(A~D)がいたとします。検査前確率は5%になりましたから、この中に本当の感染者は500人(A+B)で、非・感染者は9,500人(C+D)です。この検査の「感度は75%」ですから、本当の感染者500人のうち375人(75%)が「陽性」と出ます。この375人は「真の陽性」です。本当の感染者500人のうち125人(25%)は「陰性」と出ます。この125人は「偽陰性」です。
一方、非・感染者は9,500人でした。この検査の「特異度は99%」ですから、このうちの9,405人 (99%)が「陰性」と出ます。この9,405人は「真の陰性」です。非・感染者9,500人のうち、95人 (1%)が「陽性」と出てしまいます。間違った結果ですから、この95人は「偽陽性」です。これらを表にすると次のようになります。



この設問で求めたいのは、検査の判定が「陽性」と出た場合に「本当に感染している確率」は何%あるのか?というものでした。「真の陽性者」は375人です(A)。検査で「陽性」と判定されるのは、この「真の陽性者375人」に加えて「偽陽性者95人」です(C)。従って375÷(375+95)≒0.7979となり、陽性適中率は79.79%です。79.79%の確率で「真の陽性者」を検出できるようになります。

(3)さらに別の検査と組み合わせて検査前確率が20%に上がった場合 (感度75%、特異度99%)
このような条件でPCR検査を受ける人が1万人(A~D)がいたとします。検査前確率は20%になりましたから、この中の本当の感染者は2,000人(A+B)で、非・感染者は8,000人(C+D)です。この検査の「感度は75%」ですから、本当の感染者2,000人のうち1,500人(75%)が「陽性」と出ます(A)。この1,500人は「真の陽性」です。本当の感染者2,000人のうち500人(25%)は「陰性」と出ます(B)。この500人は「偽陰性」です。
一方、非・感染者は8,000人(C+D)でした。この検査の「特異度は99%」ですから、このうちの7,920人 (99%)が「陰性」と出ます(D)。この7,920人は「真の陰性」です。非・感染者8,000人のうち、80人 (1%)が「陽性」と出てしまいます(C)。間違った結果ですから、この80人は「偽陽性」です。これらを表にすると次のようになります。



この設問で求めたいのは、検査の判定が「陽性」と出た場合に「本当に感染している確率」は何%あるのか?というものでした。「真の陽性者」は1,500人です(A)。検査で「陽性」と判定されるのは、この「真の陽性者1,500人」に加えて「偽陽性者80人」です(C)。従って1,500÷(1,500+80)≒0.9494となります。陽性適中率は94.94%です。94.94%の確率で「真の陽性者」を検出できるようになりました。

2020年の春、日本はまだPCR検査をたくさんできる体制ではなく、いくつかの条件に合う人のみに検査をしていました。その時の作業能力にもよりますが、検査前確率を高くしたことは理にかなっています。効率的にCOVID-19を探し出すのには正しい方法でした。この後で陰性適中率について触れますが、この条件(感度75%、特異度99%、検査前確率20%)での陰性適中率は94.06%になります。陽性適中率(真の陽性者を検出する)は94.94%でしたから、「真の陽性」も「真の陰性」もバランス良く検出できる条件だと言えます。

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これまで提示した表から、陰性適中率(D/[B+D])を計算することもできます。すなわち、検査の判定が「陰性」と出た場合に、本当に陰性(真の陰性)である確率です。

(A)感度90%、特異度80%の場合(2016年の医師国家試験より)の陰性適中率
(1)検査前確率が0.1%の時
 真の陰性は7,992人。偽陰性は1人。従って7,992÷(7,992+1)→99.99%
(2)検査前確率が5%の時
 真の陰性は7,600人。偽陰性は50人。従って7,600÷(7,600+50)→99.35%
(3)検査前確率が20%の時
 真の陰性は6,400人。偽陰性は200人。従って6,400÷(6,400+200)→96.97%

(B) 感度75%、特異度99%の場合(コロナ制圧タスクフォースより) の陰性適中率
(1)検査前確率が0.1%の時
 真の陰性は9,890.1人。偽陰性は2.5人。従って9890.1÷(9890.1+2.5)→99.97%
(2)検査前確率が5%の時
 真の陰性は9,405人。偽陰性は125人。従って9,405÷(9,405+125)→98.69%
(3)検査前確率が20%の時
 真の陰性は7,920人。偽陰性は500人。従って7,920÷(7,920+500)→94.06%

PCR検査で「陰性」と判定された場合、本当に陰性である確率(陰性適中率)は高いようです。これは「偽陽性が多い」ということの裏返しですが、「陰性」だと知りたい場合に、この検査はそれなりに意味はあるのかも知れません。ただし、この結果をそのまま現在の新型コロナ感染症に当てはめるのは問題が残ります。諸検査を組み合わせて検査前確率を高くしておくと、陽性を検出する精度は飛躍的に高くなりましたが、わずかながら陰性適中率が下がりました。偽陰性が増えたという事です。「偽陰性」とは、「本当は陽性者」なのに「陰性」と判定される人です。体内にウイルスを持った偽陰性の人が安心してあちこち動き回るとスーパー・スプレッダーになる可能性があります。一方、偽陽性者は感染してないのに行動を制限されるだけで、他者に迷惑はかけないでしょう。結果的に軽症者の割合が増えます。

前記のようにCOVID-19のことが良くわかっていなかった頃、日本ではPCR検査をする際に検査前確率を高くする対応が厳しいくらいになされており、パニック的に病院に駆けつけることもなかったのですが、他の国では検査に集まった場所で感染した人もいたのではないかと想像できます。

(附記)
最初に出てきた世田谷モデルですが、仮に5人の検体を1組の試料として検査する場合、10,000人を対象とする場合は2,000組の検体を検査することになります。ある試料が陰性の場合は、その組の5人すべてが陰性という事になります。一方、1人でも陽性なら試料全体が陽性となります。陽性者を特定するためには、改めて5人全員の検査をする必要があります。

この5人のうちで組み合わせの数を考えると、
0人が陽性:5C0=1通り
1人が陽性:5C1=5通り
2人が陽性:5C2=10通り
3人が陽性:5C3=10通り
4人が陽性:5C4=5通り
5人が陽性:5C5=1通り
・・・となるはずです。従って1人以上が陽性となる確率は、(5+10+10+5+1)/( 1+5+10+10+5+1)≒0.969 → 96.9%だと思うのですが、これ以上はどうやって計算するのか分かりません。何時でも、誰でも・・・という検査では、偽陽性が多いのは既に示した通りですから大量の偽陽性検体が生じる可能性があります。陽性と判定された組の全員の行動制限をする訳にもいかないので、追加の特定作業が二度手間になるのではないかと思われます。

センター長  2020/08/29(Sat) 14:28:49
超漢字のこと
前稿でBTRONは先細り・・・と書きましたが、唯一、パーソナルメディア社が頑張っていました。1990年12月に「BTRON2」を発表しました。坂村健氏が骨折で闘病中にあって明るいニュースでした。しかしながら世界中のパソコンではMS-DOSが動いていました。その後の日本はバブル崩壊後の暗闇に入っていくのですが、1998年7月に新バージョンのBTRON3に準拠した32bitPC/AT互換機、いわゆるDOS/Vパソコン用のOS(B-right/V)を発売しました。そして1999年11月には、このOS (B-right/V)で作動するアプリケーション群パッケージとして「超漢字」を発売しました。私は確か雑誌の附録に付いていたお試し版の超漢字で遊んでいたのですが、「超漢字4」の時から正規ユーザーになりました。その時はハードディスクをパーティションで分けて、コンピュータ始動時にWindowsを選ぶかB-right/Vを選ぶか選択するシステムでした。B-right/Vの上で作動する「超漢字」にはワープロや表計算ソフトや図形編集ソフトなどの応用アプリケーションはありましたが、やはりアプリの多様さについてはWindowsにかなうはずがありません。メインとしてはN-BASIC→N88-BASIC→少しCP/M→MS-DOS→Windows3.1・・・でした。そんな中で2006年10月に、OSが「B-right/V R4.5」となった時に「超漢字4」が「超漢字/V」に変身しました。

図1 超漢字/V


なんと!コンピュータ(Windows)上に仮想コンピュータ(エミュレーター)を作り、そのOSになったのです。VMware社の「VMware Player」という仮想コンピュータが作動するWindowsとUNIXが正式対応です。詳しく調べたことはないのですが、アップル社のコンピュータでもVMware Playerさえ動けば可能かもしれません。以前、iMacのVIRTUAL PC(Connectix社)というエミュレーターの上でB-right/Vが動いたという話があったからです。しかしながら詳細は不明です。

元々のB-right/VはWindowsと同格のOSだったのですが、生き残るためには妥協せざるを得ません。仮想コンピュータのOSになったということは、見た目がWindowsのアプリケーションのようになったということです。それまでのユーザーとしては残念な感じではありましたが、結果として凄く便利になりました。普段使うものとして、やはりWindowsベースのアプリケーションの方が圧倒的に便利なので、こちらに軍配を上げざるを得ません。しかしながらBTRONは漢字を用いる際の利便性という点で他を寄せ付けません。現在の「超漢字/V」は18,000円です。別に「VMware Workstation player」をネットよりダウンロードして、セットアップする必要があります。これは個人使用の範囲なら無料です。

話は飛躍しますが、他のOSの中で生き残るという点で、このB-right/V R4.5は「ミトコンドリア」のようです。今は細胞小器官のミトコンドリアですが、その祖先は単体として酸素を有効活用する生物でした。酸素は生命にとって「なくてはならないもの」なのですが、本来の酸素は「物質にとって有害なもの」でした。例えば金属を酸化させます。酸化とは錆びることです。錆びていく過程は物質が壊れていく過程です。酸素は細胞を老化させます。ビタミンCが「お肌に良い」のは抗酸化作用があるからです。ミトコンドリアの祖先が、そんな厄介者の酸素をエネルギーとして活用できるようにしました。それまで解糖系しかなかったところに、ミトコンドリアのTCAサイクルと言う超弩級のエネルギー産生システムが出来たわけです。ミトコンドリアの祖先としては、単体で生き抜くという道もあったはずですが、他の細胞に飲み込まれてしまいました。仮にミトコンドリア(の祖先)だけが利益を得る場合は「寄生」ということになります。ミトコンドリア(の祖先)には意識がありませんが、もし嫌々ながら・・・ということなら、「他の細胞に飲み込まれた犠牲者」という事になります。まぁ普通に考えると両者に利益がありそうなので「共生」ということになるでしょう。ミトコンドリアの中には、かつて単体の生物だった痕跡としてリング状(種によって異なる)のDNA(遺伝子)が入っています。ミトコンドリアは母親の卵子の細胞質だけから受け継がれるため、ミトコンドリアDNAは母系遺伝します。これに対して日本を日本たらしめる天皇は男系で継承されていますから、Y染色体が脈々と2000年以上も前から繋がっているということです。ちなみに血液が赤いのは「錆」に関係があります。赤血球中のヘモグロビンというタンパクの中央にはFe(鉄)が鎮座しています。この鉄が酸素と結合すると赤くなります。「赤サビ」ということです。ヘモグロビンの鉄は肺で酸化され末梢組織で還元されます。「還元」とは酸素が外れることです。言い換えると、肺で錆びてしまった鉄が、末梢組織で新品に蘇る(還元する)ということになります。末梢組織で解放された酸素をミトコンドリアが処理して沢山のエネルギーを産生します。ついでに書いておくと海老や蟹などの甲殻類の血液中で酸素を運搬するのはヘモシアニンです。これには銅が含まれています。海老の血液は青色です。古い10円玉が青色の粉を噴いていることがありますが、これは銅のサビ(緑青)です。ヘモシアニンは、酸素と結びついていない場合は無色透明なのだそうです。通常目にする海老や蟹は死んでいますから、ヘモシアニンは酸素と結びついていないことになります。だから青色の血液は目立たないのかも知れません。ヘモグロビンは細胞の中に存在するため、それを含む細胞は「赤血球」と言います。ヘモシアニンは細胞中にはなく、血漿中にそのまま存在します。従って「青血球」と言うのは存在しません。

話を「超漢字」に戻します。非常に多くの漢字を扱うことが出来るという特徴は既に示しました。TRON以外では、コンピュータ側の勝手な都合(文字コード領域の制限)によって採用される漢字が限定されています。UNICODEの採用で使える文字は増えたようですが、それでもTRONにはかないません。TRONの場合は、たとえ使用頻度が少なかろうと、異体字を含めて実在する漢字を排除しないという設計思想です。漢字は日本の文化ですから、漢字を大切にするというのが純国産OSの基本姿勢です。この漢字優先主義の他にBTRONではファイル管理システムが他のOSと異なっているという特徴があります。一応はキャビネット(仮身一覧)という保管庫も用意されているので、このキャビネットを入れ子構造にすることで階層(Windowsと同じようなディレクトリ・ツリー)を構築することが出来ます。しかしながらBTRONにおいては、ファイルは「どこに存在しても構わない」というネットワーク式の設計です。これを「実身仮身モデル」と言います。「実身(じっしん) Real Object」と「仮身(かしん) Virtual Object」という概念は慣れると単純です。実身仮身モデルの概念図を示します。

図2 実身仮身モデル概念図


実身の種類別に色分けしています。黄色はキャビネット(仮身一覧:保管庫)、青色は原稿用紙(基本文章編集:ワープロ)、緑色は計算用紙(基本表計算:スプレッド・シート)、赤色は画用紙(基本図形編集:ドロー系+ペイント系)、茶色はカード用紙(マイクロカード:データベース)です。雲形のものが実身(データそのもの)を示します。これを指し示す仮身(四角で表示)は、他の実身の中にあります。「他の実身」というのは、キャビネットでも原稿用紙でも計算用紙でも画用紙でもカード用紙でも構いません。仮身の矢印が自分の実身(データ本体)を指しています。仮身は「タグのようなもの」と例えられることがありますが別の例えで言うと、仮身とは実身(データそのもの)に入るドアであり、「ドラえもん」に出てくる「どこでもドア」と考えることもできます。この仮身(どこでもドア)は1個の実身に対して最低1個は必要ですが、何処にでも、いくつ作っても構いません。これらの仮身は削除することが出来ますが、「実身を削除する」という明示的な動作やコマンドは存在しません。不要となった仮身は削除していくのですが、それが実身にとって「最後の仮身」だった時に「実身が共に消滅する」という設計です。ただしこれには例外があります。例えば作業途中に電源が落ちてしまった時など、稀に仮身が存在しないのに「実身だけ」が存在してしまうことがあります。これを「くず実身」と呼びます。さらに重箱の隅をつつくと「自己参照くず実身」と言うのもあります。例えば2つの実身の場合、2匹の蛇が互いの尾に噛みつくように相手のみを参照してしまい、他のどの実身ともつながっていない状態です。これらを救い出す方法についてここでは触れません。また、ほとんど遭遇しませんが、外付けデバイスを用いる時に「虚身」が出来てしまうことがありますが、これも触れません。

図で明らかなように、実身同士が「仮身と言うどこでもドア」で繋がっています。別稿で触れましたが、このようなハイパーテキストをシステム(OS)として標準装備しているのはBTRONくらいではないでしょうか。ちなみにハイパーテキストは1965年にTed Nelsonが提唱しました。「文書」と「文書を参照するリンク」のみによって構成される文書情報システムのことです。複数の文書は相互に関連付けられ自由に参照することが出来ます。インターネットのWWWもハイパーテキスト方式を採用しています。

繰り返しになりますが仮身とは、あるファイルの中身(実身:データそのもの)を指し示す「タグ」のようなもので、「どこでもドア」のようなものと書きました。実身の中には、いくらでも仮身を入れることができます。その仮身をクリックすることで、それを示す実身を開くことが出来ます。ですからデータを芋づる式に開いていけるのです。仮身はどこにでも置いておけると書きましたが、例えば、ワープロ文章中の仮身を考えてみます。仮身はデフォルトとしては短冊の形です。この仮身のタイトルとして示されているのは「実身の名前」と同じです。この仮身の外見は書式を変えることが出来ます。それにより「実身の名前」を、あたかも文章の一部のようにすることが可能です。その仮身の見た目(書式)を前後のワープロ文章と同じにすると、あたかも仮身(実身の名前)が文章の中に一体化されるという事です。これが他の文字と同じ色だと、その存在自体が分からなくなるので例えば赤色にしておきます。すると、その赤字の部分(別の文章の仮身)をクリックすると、そのデータ(実身)が開きます。ハイパーテキストの様に使うことが出来るというのはこのことです。実身(データ)の中に、他の実身の仮身(その実身の名前)を入れることが出来るので、芋ずる式に繋がるのです。具体例を後で図示します。

「開いた仮身」と言って、実身の一部を見えるようにできるのもユニークな機能です。この場合の仮身は「どこでもドア」と言うよりは「どこでも窓」と考えた方が良いでしょう。「開いた仮身」とは、窓を開けっぱなしにしておくことです。対象となる実身の一部を「覗き見る」ことができるのです。この部分をクリックすると、その実身の全体が示されます。この「どこでも窓」についても、デフォルトが短冊形である仮身のタイトル書式の設定を変えることで、他の文章と一体化することが出来ます。前の例では、あくまで「実身の名前」が前後の文章と一体化するのみでしたが、「開いた仮身(どこでも窓)」を用いると、「別の実身の中身」を「元になる実身」と一体化できるという事です。実際の実身と仮身の例を図示します。

図3 実身「象形文字」

「象形文字」という名前の付いた実身です。他のファイル(=実身)の中にある仮身をダブルクリックすると、この実身が出てきます。

図4 実身「仮身の使い方の例」

「仮身の使い方の例」という名前の実身です。この中には「象形文字」と書かれた「仮身」がふたつ含まれています。図3で示した実身にアクセスするための扉(どこでもドア)です。これをダブルクリックすると、図3のウィンドウが出てきます。仮身のタイトルは、元の実身と同じですから、実身(図3)のタイトル部分だけが仮身として示されていると考えても良いでしょう。「象形文字」の前についているのはピクトグラムと言われ、そのファイルの種類を示します。

図5 仮身の書式を変更

1行目にある仮身の書式を変更しました。ピクトグラムを消したり外枠を外したりしました。タイトル文字が黒のままでは前後の文章と区別がつかなくなるので、ここでは赤字にしました。「象形文字」という仮身が前後の文章と一体化しました。この外観でも「仮身」ですから、これをダブルクリックすると図3の実身が出てきます。

図6 開いた仮身の例

下にあった仮身を開きました。短冊の形をしている仮身の右下隅をぐ~っと引っ張っていくと、「開いた仮身」になります。「どこでも窓」の例えのごとく、実身の中身を覗き見ているのです。これも仮身ですから、ダブルクリックすると別の場所に図3のウィンドウが出てきます。

図7 開いた仮身の書式を変更

図6で「開いた仮身」を紹介しましたが、これも仮身ですから書式を変更できます。図5の場合と同様にピクトグラムや枠を消すとこのようになります。ファイルの中身は「元の実身」なので、この作業では色を変えることはできませんが、このように「仮身の使い方の例」という実身の中に、「象形文字」という実身の中身を、あたかも一体化することができます。覗き見る部分は「象形文字」の中の一部でも構いません。もし「象形文字」という実身に付け足しや訂正があった場合、これを参照している全ての部分に反映されます。重要なのは、これが基本文章編集(ワープロ)の中だけではないということです。「超漢字」で採用されている表計算でも図形編集アプリでも同様に使えます。

パーソナル用途を前提としたからだと思われますが、この実身の数には65,000個という制限があります。BTRONが実身を16ビット(2バイト)で管理するための制限です。16ビットの2進法では0~65,535までしか扱うことが出来ません。実身は、OSが自動的に付与した番号(ファイルID)で管理されるので、字数制限(20字まで)はありますが、どんな名称を付けても構いません。同じ名前をつけても構わないのですが、ユーザー自身が迷うだけです。本格的に仕事に使うとなると、このような実身数の制限がネックになる可能性はありますが、ハードディスクに別の区画を作ることで実質的に実身数を増やすことは可能のようです。私は必要性が無いのでやったことがありません。


センター長  2020/08/18(Tue) 20:26:48
TRONとは何か?
1984年に東京大学理学部助手(当時32歳)の坂村健氏によって、東京で開催された「マイクロコンピュータ応用国際会議」の場でTRON構想が発表されました。そして、そこに集う人々によりTRONプロジェクトが開始されました。その後の坂村健氏は東京大学教授となり、今は東洋大学教授・情報連携学部長です。TRON構想発表の2年前、1982年にはディズニー映画の「TRON」が封切になっていました。コンピュータのメモリの中にデジタル化された人間が入っていくというストーリーは斬新でした。私が好きな映画のひとつです。TRON構想発表の前ということになりますが、坂村健氏も確かに映画「TRON」を観ているようです。プロジェクト名を映画から採ったのか?という質問に対して、「そうでもないし、そうでもある・・・」と答えたことがあるそうです。また2004年3月11日の朝日新聞には、当時公開中の映画「イノセンス」についての論評が載っています。「イノセンス」は押井守監督による映画版の攻殻機動隊の第2弾です。新聞には「国産OS(基本ソフト)トロンの開発者で、SFにも造詣が深い坂村健東大教授に評してもらった」とあります。TRONは多漢字・多言語システムであり、文字を全部で31枚の面(スクリプト)で管理しています。この第9面のBゾーンには、森岡浩之氏のSF小説「星界の紋章」で使われるアーヴ語の文字「アース」のコードが割り当てられています。アーヴ語はヤマト語族トヨアシハラ語派に属する言語だそうで、発音とか文法も設定されています。「アース」とはアーヴ語で「文字」の意味で、もちろん架空の文字です。この「アース」のフォントは創作者の好意により無償利用が可能とされ「超漢字」に付属しています。ユーザーは別途インストールする必要がありますが、そもそも文字コードが割り当てられている時点で、TRON構想の遊び心が感じられます。ついでに書いておくと、トロン・コードは面(スクリプト)を切り替えて使っています。全部で31面あると書きました。各々の面には48,400個の符号点があるので、TRONで利用可能な文字数は31×48,400 = 1,500,400文字です。このうち今のところ9面だけが使われており、約18万文字が使えます。

アーヴ言語の文字


トロン・コードの面(スクリプト)の概要


TRONプロジェクトは「The Realtime Operating System Nucleus(非常に速い応答速度を持つコンピュータの中核)」の略です。応答時間が限りなく短いリアルタイム性を追求したということです。大きく分けて、ITRON(産業用:組み込み用)、CTRON(サーバー用)、BTRON(汎用OSなどのビジネス用)、MTRON(分散コンピューティング用)がありました。偶然かどうか知りませんが、4つで「ICBM(大陸間弾道ミサイルの略)」となります。映画「TRON」の方は、コンピュータ内部の異常を探索するプログラム(トロン)が主人公でしたから、TRace-On(トレース・オン)というコンピュータ・コマンドが語源だと思います。例えば入門用コンピュータ言語であるBASICのデバッグを始めるコマンドは「TRON」で、これを解除するのが「TROFF」でした。

1986年7月に旧通産省と旧文部省が共管の財団法人コンピュータ教育開発センター(CEC)が設立されました。1989年3月には、このCECによって教育現場へのBTRONの導入決定(内定)がなされました。1989年は平成元年です。インターネット・プロバイダ・サービスが始まったのはこの頃です。BTRONは特定の製品を示す訳ではありませんが、純国産のパーソナル・コンピュータのOS(基本ソフト:オペレーティング・システム)の仕様として小中学校の教育用パソコンの標準OSになるところでした。松下電産(現パナソニック)を始め日本の企業が協力したのは言うまでもありません。BTRONは仕様やソースコードを全て無償公開するオープン・アーキテクチャでした。おまけに使用者が独自に改変しても構わないという自由度の高いものでした。ところがここに1989年4月、アメリカ合衆国通商代表部 (USTR)が介入してきました。パパ・ブッシュ政権の時に「スーパー301条」が発動されました。この「スーパー301条」とは通称です。元になった1974年の通商法第301条は、貿易相手国の不公正な取引慣行に対して当該国と協議することを義務づけ、問題が解決しない場合の制裁について定めたものでした。米国はこの「第301条」を強化するために、1988年の包括通商競争力法第1302(a)により「第310条」として以下のことを追加しました。この「第310条」は、1974年の第301条の強化版であるため、「スーパー301条」と呼ばれたと思われます。その要件は (1)不公正な貿易慣行、過剰な関税障壁を有する国をUSTR(アメリカ合衆国通商代表部)が特定し、撤廃を求めて交渉する。(2)それでも改められない場合には、その国からの輸入品に対する関税を引き上げるなどの報復措置をとる・・・というものです。当時、輸出入が特に不均衡だった日本をメイン・ターゲットとして定められた条項のようです。この追加されたばかりの条項により、日本に対して「TRONは自国のOSを優遇する貿易障壁である」と言ってきたのです。具体的には1989年4月にUSTRが発表した「外国の貿易障壁に関する年次報告書(NTEレポート)」において、スーパーコンピュータ、日本の人工衛星、林産物、ブラジルの輸入数量制限、インドの保険および対内投資に加えてTRONが候補リストに上がったということです。この中でTRONだけは名指しです。TRON構想は全てが無償かつオープンであり、その時はコンピュータの巨人であるIBM社もTRONパソコンを試作していました。日本政府からの資金援助も受けていません。ですから貿易とは何の関係もありませんが、米国としては当時のMS-DOSに大きな影響が出ると考えた可能性があります。TRON自体には何ら責任がないので5月にトロン協会はUSTRに抗議文を送りました。その事もあってかTRONは1989年の貿易障壁リストから外れましたが、翌1990年の年次報告書でも他の35項目とは別に、またもやリストに入れられました。これに日本の企業は完全にビビったようです。マスコミの偏向的とも言える報道も関係したようですし、この機会にTRONを潰そうと暗躍する人もいたようです。以後のBTRONプロジェクトは腰砕けで先細りになっていきました。結局、教育用コンピュータには「特定のOSを規定しない」ということになり、事実上MS-DOSが使われるようになりました。NECのPC-9801もMS-DOSに移行する前は独自路線のものが使われていたかもしれません。

このような状況で思い悩んでいた1990年の秋に坂村健氏は段差に躓いて転倒し、右足首を粉砕骨折しました。関節を巻き込む骨折は難治であり全治10ヶ月の重傷だったようです。「 勝者たちの羅針盤(プロジェクトX挑戦者たち) 2003/7/26」には、この時の様子が、「ショックでした。私の不注意だったんですけれど。ちょっとストレスもたまっていたし、いろいろ心労もあったからだとは思うんですけれど、たまたま運悪くそういういろんなことが起こっているときに。これはもうちょっと、やる気が出なくなるというかね、これはもうダメだなという・・・・・・うーん、最悪でした」と書かれています。TRONにおいてイネーブル・ウェアの概念が重要視されるようになったのも、このような坂村氏の体験が元になっているようです。

これら米国の対応は、今の華為技術はずしの構図に似ているような気がしないでもありません。これとは直接の関係はありませんが、TRON構想発表の翌年の1985年8月12日には日航ジャンボ機墜落事故がありました。御巣鷹(通称)の尾根に墜落した旅客機には歌手の坂本九さん以外にも、TRONプロジェクトに集ってきた人が搭乗していました。大阪大学基礎工学部の教授も乗っていました。脳の可塑性の研究では重要人物です。あの事故では大切な頭脳が失われていました。

BTRONは先細り・・・と書きましたが、TRONプロジェクト全体が消滅した訳ではありません。ITRONはプログラムのコンパクトさ、リアルタイム性、オープン・アーキテクチャということもあってiモード対応の携帯電話(ガラパゴス携帯:ガラケー)に使われたり、日本の家電製品・事務機器とか小規模な制御用として黒子の役割を果たしました。トヨタのエンジン制御システムにも採用されました。その他にカーナビやデジカメなど多くの機器に組み込まれました。このような家電製品や事務機器と言っても、小さなコンピュータには違いありません。それを制御するOSですから、実は世界で最も使われるOSになっていったということです。最近では、小惑星探査機「はやぶさ・はやぶさ2」やH2Aロケットに使われていますし、ニンテンドー・スイッチ(ゲーム機)のコントローラーにも使われています。TRONプロジェクト全体として、呼び名は変わっていきましたが「ユビキタス」の方向に進んでいます。今で言う「IoT (Internet of Things:物のインターネット)」と言うことですが、まさしく坂村健氏が初めから「どこでもコンピュータ」と言っていたことです。さらに2017年にはTRONの発展形であるμT-Kernel 2.0(組み込み向けリアルタイムOS)の著作権がIEEE(米電機電子学会)に譲渡されたことで、2018年にはIEEEによって標準化されるIoT用の組み込み型OSの国際標準規格となりました。実のところはIEEEに譲渡しなくても、すでにITRON (組み込み型TRON)はデファクト・スタンダード(事実上の標準)になっていたのですが、IEEEからの著作権譲渡の話があたったため無償で提供したものです。ビル・ゲイツ氏がMS-DOSやWindowsというOSを有償で配布(販売)して巨万の富を得たのとは対照的です。これは利用者を広げるための苦肉の戦略でも何でもなく、TRON構想が出来た時からの基本方針でした。坂村健氏としては、OS(基本ソフト)は「空気や水のようなもの」という考えで一貫しています。現在、旧称ITRONは数多くの機器に組み込まれていますが、TRONはそれを声高に主張せずに黒子に徹しているため広く知られていないだけです。

(補足1)
トロン協会が1989年にUSTRに送った直訴状には「トロン憲章」も同封されていました。
(1)トロンは坂村健博士により提唱されたコンピュータのオープンアーキテクチャであり、トロン仕様書は、全世界の誰にでも公開する。
(2)トロン仕様書の著作権は、トロン協会に帰属する。トロン仕様書に準拠する製品化のために、誰でもトロン仕様書を利用することができる。
(3)トロン仕様書の作成、仕様適合性の検証、その他トロン・プロジェクトの推進に関する中核機関として、トロン協会が設立されている。トロン・プロジェクトの目的に賛同し、所定の規約に従うものは、世界中の誰でもトロン協会の会員になることができる。

(補足2)
エンジン制御システムの基本ソフトにTRONを搭載した世界初の自動車は、1999年(平成11年)5月発売のトヨタ「プラド」でした。米国によりTRONが不公正貿易障壁であると難癖を付けられた1989年から10年後のことです。

センター長  2020/08/16(Sun) 22:17:46
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