超漢字のこと
前稿でBTRONは先細り・・・と書きましたが、唯一、パーソナルメディア社が頑張っていました。1990年12月に「BTRON2」を発表しました。坂村健氏が骨折で闘病中にあって明るいニュースでした。しかしながら世界中のパソコンではMS-DOSが動いていました。その後の日本はバブル崩壊後の暗闇に入っていくのですが、1998年7月に新バージョンのBTRON3に準拠した32bitPC/AT互換機、いわゆるDOS/Vパソコン用のOS(B-right/V)を発売しました。そして1999年11月には、このOS (B-right/V)で作動するアプリケーション群パッケージとして「超漢字」を発売しました。私は確か雑誌の附録に付いていたお試し版の超漢字で遊んでいたのですが、「超漢字4」の時から正規ユーザーになりました。その時はハードディスクをパーティションで分けて、コンピュータ始動時にWindowsを選ぶかB-right/Vを選ぶか選択するシステムでした。B-right/Vの上で作動する「超漢字」にはワープロや表計算ソフトや図形編集ソフトなどの応用アプリケーションはありましたが、やはりアプリの多様さについてはWindowsにかなうはずがありません。メインとしてはN-BASIC→N88-BASIC→少しCP/M→MS-DOS→Windows3.1・・・でした。そんな中で2006年10月に、OSが「B-right/V R4.5」となった時に「超漢字4」が「超漢字/V」に変身しました。

図1 超漢字/V


なんと!コンピュータ(Windows)上に仮想コンピュータ(エミュレーター)を作り、そのOSになったのです。VMware社の「VMware Player」という仮想コンピュータが作動するWindowsとUNIXが正式対応です。詳しく調べたことはないのですが、アップル社のコンピュータでもVMware Playerさえ動けば可能かもしれません。以前、iMacのVIRTUAL PC(Connectix社)というエミュレーターの上でB-right/Vが動いたという話があったからです。しかしながら詳細は不明です。

元々のB-right/VはWindowsと同格のOSだったのですが、生き残るためには妥協せざるを得ません。仮想コンピュータのOSになったということは、見た目がWindowsのアプリケーションのようになったということです。それまでのユーザーとしては残念な感じではありましたが、結果として凄く便利になりました。普段使うものとして、やはりWindowsベースのアプリケーションの方が圧倒的に便利なので、こちらに軍配を上げざるを得ません。しかしながらBTRONは漢字を用いる際の利便性という点で他を寄せ付けません。現在の「超漢字/V」は18,000円です。別に「VMware Workstation player」をネットよりダウンロードして、セットアップする必要があります。これは個人使用の範囲なら無料です。

話は飛躍しますが、他のOSの中で生き残るという点で、このB-right/V R4.5は「ミトコンドリア」のようです。今は細胞小器官のミトコンドリアですが、その祖先は単体として酸素を有効活用する生物でした。酸素は生命にとって「なくてはならないもの」なのですが、本来の酸素は「物質にとって有害なもの」でした。例えば金属を酸化させます。酸化とは錆びることです。錆びていく過程は物質が壊れていく過程です。酸素は細胞を老化させます。ビタミンCが「お肌に良い」のは抗酸化作用があるからです。ミトコンドリアの祖先が、そんな厄介者の酸素をエネルギーとして活用できるようにしました。それまで解糖系しかなかったところに、ミトコンドリアのTCAサイクルと言う超弩級のエネルギー産生システムが出来たわけです。ミトコンドリアの祖先としては、単体で生き抜くという道もあったはずですが、他の細胞に飲み込まれてしまいました。仮にミトコンドリア(の祖先)だけが利益を得る場合は「寄生」ということになります。ミトコンドリア(の祖先)には意識がありませんが、もし嫌々ながら・・・ということなら、「他の細胞に飲み込まれた犠牲者」という事になります。まぁ普通に考えると両者に利益がありそうなので「共生」ということになるでしょう。ミトコンドリアの中には、かつて単体の生物だった痕跡としてリング状(種によって異なる)のDNA(遺伝子)が入っています。ミトコンドリアは母親の卵子の細胞質だけから受け継がれるため、ミトコンドリアDNAは母系遺伝します。これに対して日本を日本たらしめる天皇は男系で継承されていますから、Y染色体が脈々と2000年以上も前から繋がっているということです。ちなみに血液が赤いのは「錆」に関係があります。赤血球中のヘモグロビンというタンパクの中央にはFe(鉄)が鎮座しています。この鉄が酸素と結合すると赤くなります。「赤サビ」ということです。ヘモグロビンの鉄は肺で酸化され末梢組織で還元されます。「還元」とは酸素が外れることです。言い換えると、肺で錆びてしまった鉄が、末梢組織で新品に蘇る(還元する)ということになります。末梢組織で解放された酸素をミトコンドリアが処理して沢山のエネルギーを産生します。ついでに書いておくと海老や蟹などの甲殻類の血液中で酸素を運搬するのはヘモシアニンです。これには銅が含まれています。海老の血液は青色です。古い10円玉が青色の粉を噴いていることがありますが、これは銅のサビ(緑青)です。ヘモシアニンは、酸素と結びついていない場合は無色透明なのだそうです。通常目にする海老や蟹は死んでいますから、ヘモシアニンは酸素と結びついていないことになります。だから青色の血液は目立たないのかも知れません。ヘモグロビンは細胞の中に存在するため、それを含む細胞は「赤血球」と言います。ヘモシアニンは細胞中にはなく、血漿中にそのまま存在します。従って「青血球」と言うのは存在しません。

話を「超漢字」に戻します。非常に多くの漢字を扱うことが出来るという特徴は既に示しました。TRON以外では、コンピュータ側の勝手な都合(文字コード領域の制限)によって採用される漢字が限定されています。UNICODEの採用で使える文字は増えたようですが、それでもTRONにはかないません。TRONの場合は、たとえ使用頻度が少なかろうと、異体字を含めて実在する漢字を排除しないという設計思想です。漢字は日本の文化ですから、漢字を大切にするというのが純国産OSの基本姿勢です。この漢字優先主義の他にBTRONではファイル管理システムが他のOSと異なっているという特徴があります。一応はキャビネット(仮身一覧)という保管庫も用意されているので、このキャビネットを入れ子構造にすることで階層(Windowsと同じようなディレクトリ・ツリー)を構築することが出来ます。しかしながらBTRONにおいては、ファイルは「どこに存在しても構わない」というネットワーク式の設計です。これを「実身仮身モデル」と言います。「実身(じっしん) Real Object」と「仮身(かしん) Virtual Object」という概念は慣れると単純です。実身仮身モデルの概念図を示します。

図2 実身仮身モデル概念図


実身の種類別に色分けしています。黄色はキャビネット(仮身一覧:保管庫)、青色は原稿用紙(基本文章編集:ワープロ)、緑色は計算用紙(基本表計算:スプレッド・シート)、赤色は画用紙(基本図形編集:ドロー系+ペイント系)、茶色はカード用紙(マイクロカード:データベース)です。雲形のものが実身(データそのもの)を示します。これを指し示す仮身(四角で表示)は、他の実身の中にあります。「他の実身」というのは、キャビネットでも原稿用紙でも計算用紙でも画用紙でもカード用紙でも構いません。仮身の矢印が自分の実身(データ本体)を指しています。仮身は「タグのようなもの」と例えられることがありますが別の例えで言うと、仮身とは実身(データそのもの)に入るドアであり、「ドラえもん」に出てくる「どこでもドア」と考えることもできます。この仮身(どこでもドア)は1個の実身に対して最低1個は必要ですが、何処にでも、いくつ作っても構いません。これらの仮身は削除することが出来ますが、「実身を削除する」という明示的な動作やコマンドは存在しません。不要となった仮身は削除していくのですが、それが実身にとって「最後の仮身」だった時に「実身が共に消滅する」という設計です。ただしこれには例外があります。例えば作業途中に電源が落ちてしまった時など、稀に仮身が存在しないのに「実身だけ」が存在してしまうことがあります。これを「くず実身」と呼びます。さらに重箱の隅をつつくと「自己参照くず実身」と言うのもあります。例えば2つの実身の場合、2匹の蛇が互いの尾に噛みつくように相手のみを参照してしまい、他のどの実身ともつながっていない状態です。これらを救い出す方法についてここでは触れません。また、ほとんど遭遇しませんが、外付けデバイスを用いる時に「虚身」が出来てしまうことがありますが、これも触れません。

図で明らかなように、実身同士が「仮身と言うどこでもドア」で繋がっています。別稿で触れましたが、このようなハイパーテキストをシステム(OS)として標準装備しているのはBTRONくらいではないでしょうか。ちなみにハイパーテキストは1965年にTed Nelsonが提唱しました。「文書」と「文書を参照するリンク」のみによって構成される文書情報システムのことです。複数の文書は相互に関連付けられ自由に参照することが出来ます。インターネットのWWWもハイパーテキスト方式を採用しています。

繰り返しになりますが仮身とは、あるファイルの中身(実身:データそのもの)を指し示す「タグ」のようなもので、「どこでもドア」のようなものと書きました。実身の中には、いくらでも仮身を入れることができます。その仮身をクリックすることで、それを示す実身を開くことが出来ます。ですからデータを芋づる式に開いていけるのです。仮身はどこにでも置いておけると書きましたが、例えば、ワープロ文章中の仮身を考えてみます。仮身はデフォルトとしては短冊の形です。この仮身のタイトルとして示されているのは「実身の名前」と同じです。この仮身の外見は書式を変えることが出来ます。それにより「実身の名前」を、あたかも文章の一部のようにすることが可能です。その仮身の見た目(書式)を前後のワープロ文章と同じにすると、あたかも仮身(実身の名前)が文章の中に一体化されるという事です。これが他の文字と同じ色だと、その存在自体が分からなくなるので例えば赤色にしておきます。すると、その赤字の部分(別の文章の仮身)をクリックすると、そのデータ(実身)が開きます。ハイパーテキストの様に使うことが出来るというのはこのことです。実身(データ)の中に、他の実身の仮身(その実身の名前)を入れることが出来るので、芋ずる式に繋がるのです。具体例を後で図示します。

「開いた仮身」と言って、実身の一部を見えるようにできるのもユニークな機能です。この場合の仮身は「どこでもドア」と言うよりは「どこでも窓」と考えた方が良いでしょう。「開いた仮身」とは、窓を開けっぱなしにしておくことです。対象となる実身の一部を「覗き見る」ことができるのです。この部分をクリックすると、その実身の全体が示されます。この「どこでも窓」についても、デフォルトが短冊形である仮身のタイトル書式の設定を変えることで、他の文章と一体化することが出来ます。前の例では、あくまで「実身の名前」が前後の文章と一体化するのみでしたが、「開いた仮身(どこでも窓)」を用いると、「別の実身の中身」を「元になる実身」と一体化できるという事です。実際の実身と仮身の例を図示します。

図3 実身「象形文字」

「象形文字」という名前の付いた実身です。他のファイル(=実身)の中にある仮身をダブルクリックすると、この実身が出てきます。

図4 実身「仮身の使い方の例」

「仮身の使い方の例」という名前の実身です。この中には「象形文字」と書かれた「仮身」がふたつ含まれています。図3で示した実身にアクセスするための扉(どこでもドア)です。これをダブルクリックすると、図3のウィンドウが出てきます。仮身のタイトルは、元の実身と同じですから、実身(図3)のタイトル部分だけが仮身として示されていると考えても良いでしょう。「象形文字」の前についているのはピクトグラムと言われ、そのファイルの種類を示します。

図5 仮身の書式を変更

1行目にある仮身の書式を変更しました。ピクトグラムを消したり外枠を外したりしました。タイトル文字が黒のままでは前後の文章と区別がつかなくなるので、ここでは赤字にしました。「象形文字」という仮身が前後の文章と一体化しました。この外観でも「仮身」ですから、これをダブルクリックすると図3の実身が出てきます。

図6 開いた仮身の例

下にあった仮身を開きました。短冊の形をしている仮身の右下隅をぐ~っと引っ張っていくと、「開いた仮身」になります。「どこでも窓」の例えのごとく、実身の中身を覗き見ているのです。これも仮身ですから、ダブルクリックすると別の場所に図3のウィンドウが出てきます。

図7 開いた仮身の書式を変更

図6で「開いた仮身」を紹介しましたが、これも仮身ですから書式を変更できます。図5の場合と同様にピクトグラムや枠を消すとこのようになります。ファイルの中身は「元の実身」なので、この作業では色を変えることはできませんが、このように「仮身の使い方の例」という実身の中に、「象形文字」という実身の中身を、あたかも一体化することができます。覗き見る部分は「象形文字」の中の一部でも構いません。もし「象形文字」という実身に付け足しや訂正があった場合、これを参照している全ての部分に反映されます。重要なのは、これが基本文章編集(ワープロ)の中だけではないということです。「超漢字」で採用されている表計算でも図形編集アプリでも同様に使えます。

パーソナル用途を前提としたからだと思われますが、この実身の数には65,000個という制限があります。BTRONが実身を16ビット(2バイト)で管理するための制限です。16ビットの2進法では0~65,535までしか扱うことが出来ません。実身は、OSが自動的に付与した番号(ファイルID)で管理されるので、字数制限(20字まで)はありますが、どんな名称を付けても構いません。同じ名前をつけても構わないのですが、ユーザー自身が迷うだけです。本格的に仕事に使うとなると、このような実身数の制限がネックになる可能性はありますが、ハードディスクに別の区画を作ることで実質的に実身数を増やすことは可能のようです。私は必要性が無いのでやったことがありません。


センター長 | No.46 札幌西円山病院リハビリテーションセンター   2020/08/18(Tue) 20:26:48
ページトップへ