誤嚥の仕組みと予防(5)
(1) リハ・スタッフをまじえた回診をしていた時の事です。私が患者さんに「はばけますか?」と聞いたところ、患者さんは「はばける」と言いました。その病室を出た時のことです。付いていた言語聴覚士に「先生、はばけるって何ですか?」と聞かれました。私と患者さんは当然のことのように会話が成立してましたし、一瞬、何の事か分かりませんでした。その後、「そうか方言だったのか」と認識しました。そのセラピストは北海道出身ではなかったのです。

(2) 日本語で母音は「あいうえお」です。子音の様式には4種類あります。1.口唇音、2.歯舌音、3.口蓋音、4.喉頭音です。さらに1.口唇音には、1a. 口唇音(上下の口唇が接触するもの)と、1b. 口唇音(上下の口唇が接触しないもの)があります。1a.には「まみむめも、ばびぶべぼ、ぱぴぷぺぽ」があります。1b.には「ふ、わ」があります。うまく文字で示せませんが、わ行の「ぅい、ぅう、ぅえ、ぅお」もそうです。2.歯舌音としては「さしすせそ、たちつてと、なにぬねの、らりるれろ、ざじずぜぞ、だぢづでど」です。3.口蓋音としては「かきくけこ、ひ、やゆよ、ん」です。先ほどと同じように書くと、や行の「ぃい、ぃえ」もそうです。4.喉頭音としては「はへほ」です。むせないための「おまじない」として示した「パタカラホ」で考えると、パ→1a.口唇音(上下の口唇が接触する)、タ→2.歯舌音、カ→3.口蓋音、ラ→2.歯舌音、ホ→4.喉頭音となります。「パタカラホ」には1b.口唇音(上下の口唇が接触しない)が入っていません。これも入れると「パタカラワホ」とでもなりましょうか。

これ以外かも知れないなと、私の印象に残っているのは大分前の映画の「ブッシュマン」。後にブッシュマンという呼び方は不適切と言われるようになったようで、「コイサンマン」とタイトルが変更になりました。これに出ていた「ニカウさん」の種族の言語があります。記憶では「頬を膨らませて出す音」であり、口唇破裂音に近いかもしれません。

(3) 1a.口唇音(上下の口唇が接触する)は口唇破裂音とも言いますが、腹話術師にとっては鬼門でした。腹話術師は、ごく僅かだけ口を開けていますが、このまま表情を変えてはいけないのです。ですから、上下の唇が接触する1a.口唇音(上下の口唇が接触する)は明らかに唇が動いてしまうので、腹話術としては不可能なのです。以前、何かで腹話術師は、パ行、バ行、マ行の含まれないシナリオを用意する必要があると読んだ記憶があり、ずっとそれを信じていました。ところが、その常識が覆されました。最近の腹話術師の「いっこく堂」さんが、スキャットマンのものまねをしたのを見た時は、私の中に衝撃が走りました。「パッパッパラッパー」と、口唇を少しも動かさずに発音しているのです。これは既存の常識では無理です。でも「いっこく堂」さんは、その方法を言わば「発明」しました。世界中に、こんな発音をする言語は存在しないのではないかとさえ思えます。私にとって面白いテーマでしたし、自分なりに謎解きしました。そこで、これを単純化した設問を作りました。これまで何人かの言語聴覚士を含むセラピストに聞いてみましたが、答えられた人はいませんでした。その設問とは「上口唇と下口唇を接触させずに、パピプペポと発音せよ」というものです。「いっこく堂」さんは、後にテレビでネタばらしをしてました。この時の表現は覚えてなくて、分かりにくかったのですが、私が思いついた理屈と同じだと思います。それ以外にないと思うのです。そのうち、このブログでヒントを出します。

(4) 食道に入った食べ物は、重力によって胃に落ち込むわけではありません。もちろんそれもあるでしょうが、食道自体の働きです。そうでなければ、宇宙ステーションにいる宇宙飛行士は何も食べられない事になります。また、やった事はありませんが、逆立ちしても胃に運ばれるはずです。やってみる時は自己責任でどうぞ。

センター長  2019/06/12(Wed) 21:02:59
誤嚥の仕組みと予防(4)
A) 最近良く聞きますけど、誤嚥性の肺炎というのがありますね。
B) そうですね。これまで誤嚥の予防という話をしましたが、実は肺炎の予防という、もうひとつ別のテーマがあります。
A) 別なんですか?
B) 誤嚥したからと言って、必ずしもそれが全て肺炎になるという訳ではないんです。要するに肺炎というのは、ばい菌が肺に入り込むことでなります。多少食べ物が間違って入っても、すぐ咳が出ますから、それで吐き出してくれるんですね。病気の種類によっては咳反応が出ない人もいますから、それはそれで問題なんですが、基本的には出してくれる。ただその時に、口の中がきれいかどうかという事があります。というのは、虫歯がひどかったり、雑菌が沢山いたりすると、口の中の菌を一緒に押し込んじゃうという話になります。
A) それが元で肺炎に・・・。
B) ですから、口の中を普段からきれいにしておくと・・・口腔清拭ですね、多少、誤嚥があっても肺炎にはならない。ムセる事は、まぁ仕方がないとしても、肺炎を防ぐことはある程度・・・と言うか、結構できます。
A) では肺炎に関しては色々な要因があると・・・?
B) 夜間に唾液が流れ込んでしまうというのが、肺炎の大きな原因だったりします。寝てる最中は意識がない状態ですから分からないですね。そういった時には、誤嚥を予防も何もない訳です。口の中をきれいにしておくしかないです。
A) 最後は肺炎の話でしたけども、嚥下機能に関しては、なるべく声を出してカラオケなり新聞を読んだり。あと「パタカラホッ」という言葉がとても良いと・・・。
B) これを1回唱えたからと言って効くわけではないんですけれども、意識として持っておくということが大事かなと思います。おまじないです。
A) 分かりました。ありがとうございました。

センター長  2019/06/11(Tue) 22:13:05
誤嚥の仕組みと予防(3)
A) 機能を低下させないための予防法みたいなものは何かあるんでしょうか?
B) これは、手足で考えると分かり易いんですけれども、運動不足になると、どうしても筋力は落ちてくるんです。例えばスペースシャトルとか宇宙ステーションで研究生活している宇宙飛行士は、特別な運動をしなければ筋力がガタッと落ちて帰ってきます。無重力だと筋肉を使わないので、筋肉が萎えます。これを廃用性萎縮と言います。それと同じ事が咽喉(のど)にも生じますから、口や咽喉の筋肉が弱くなってくると、先ほど言った交通整理も悪くなってきて、こぼれてくることがあると思います。
A) では、筋力を弱らせないことですね。
B) そうですね。それが一番大事だと思います。
A) 使うってことですよね。
B) 特別に何かするっていうことよりも、おしゃべりしたりカラオケするのが良いんじゃないかと思います。
A) そういうことで、咽喉を常に使っているとによって嚥下機能が低下しないと・・・。あと、食事なんか、お餅が詰まると大変ということがありますが、気を付ける事って何かあるんでしょうか?
B) 唾液が少なくなってくると飲み込みずらいですし、食べにくい食べ物として分かり易いのは「パサパサ」とか「ポロポロ」とか、形を成さないものがこぼれていくんですね。ですから、誤嚥のもとになります。もうひとつ「サラサラ」ですね。水は形を成しませんから、実は誤嚥を起こし易いものです。
A) すっと入っていきそうなイメージありますけれどね。誤嚥の原因になるんですね。
B) ですから病院では誤嚥しそうな人にはトロミ剤を用いて、言わば、その粘着性によって食べ物に団体行動をおこしてもらうという風に、トロミをつけて食べて頂くことがあります。
A) 病院では、そういう風に食事を変えてというか、やってるんですね。でも形のないものを食べるなというのも難しいですから、注意するっていうことですよね。
B) そうですね。ムセがちな人は、おしゃべりしながら食べないとか、それに集中して飲み込むということです。あと、一口食べたら唾液などを2~3回、空(から)飲み込みするとかで、ある程度は防ぐことができると・・・。飲み込んだ時にですね、完全に胃の中とか食道の中に入るんではなく、部分的に咽喉に残るんですよ。
A) 飲んだように思えても咽喉に残ると?
B) それが後で、寝た後で、こぼれて落ちることがありますので、それも注意しなければなりません。
A) なるほど。そういう意味でも、空飲み込みですか・・・。さきほど嚥下機能を維持するということで、おしゃべりしたりカラオケとありましたが、何かトレーニングで筋力をつける方法なんてあるんでしょうか?
B) よく病院の言語聴覚士さんが患者さんに対してトレーニングしている「パタカラ」というのがあります。
A) パタカラ?
B) 「パタカラ」に「ホ」って入れると良いと思います。実は「パタカラホ」って言うとですね、これは、おそらく世界の言語も似たようなものだと思いますけれど、基本的な言語の様式4通りが全部入るんです。ですから、おまじないとして覚えておくと良いですね。
A) パタカラホ。
B) 最後の「ホ」は、お腹から「ホッ」と溜息を出すような感じですね。
A) パタカラホッですね。
B) そうですね。あともうひとつ手軽に出来るのは、新聞。ちょうど社説なんかが良い長さかなと思います。それを読む。毎朝、黙読ではなく音読するのが良いんじゃないかと思っています。声を出して。
A) 皆さん、新聞は読むでしょうからね。
B) 多少意味が分からなくても、とりあえず読み終える。まぁ知識はそのうち入って来ますから、二重の意味で良いかなと思います。

センター長  2019/06/10(Mon) 20:48:43
誤嚥の仕組みと予防(2)
A) 「誤嚥」とはどういった症状なのか教えていただけますか?
B) 本来であれば、食べ物は食道に入っていきます。ちょっと廻り道しますが、そもそも誤嚥するのは基本的に人間だけなんですよ。他の哺乳類では、まず誤嚥しません。2015年に新聞で円山動物園のキリンが死んだという記事があって、それが誤嚥だったという続報があって驚いたんです。動物園って特殊な環境ですから、歳をとったら誤嚥もあるのかもしれませんが、少なくとも構造上は誤嚥することはないんです。人間は立って二足歩行したために、咽喉(のど)が下がってきたのです。そのおかげで巧みに言語を使えるようになったので人類としては進歩したんですけれど、その代償として誤嚥するようになってしまったんです。そのように考えると分かりやすいです。
A) 二足歩行だから誤嚥するということですか。でもキリンは首が長いですね。何か途中でつまりそうな・・・。
B) そうですね、長いですね。でも、基本的には誤嚥しないんです。図にしないと分かりずらいんですが、本来、「嚥下」と「呼吸」の通路は立体交差していて、四足動物では、こぼれていかない仕組みになっているんです。ところが人間はそれが縦に伸びてしまったものですから、言葉を獲得したかわりに、せっかく立体交差だったものが外れてしまってですね、共通の通路を使うことになってしまったのです。
A) 言葉の代償として・・・。
B) そうなんです。
A) それで、漏れてしまうと。
B) ただまぁ巧みにやってますから、通常、若いうちはそんなに誤嚥する事はないんですけれども、実は「誤嚥しないこと」自体が不思議な事です。そもそも、誤嚥しても仕方がない構造にあるという風に理解した方が良いと思います。
A) では若い方はともかく、誤嚥は年齢を重ねる事でなっていくと・・・
B) そうですね。交通整理がうまくいかなくなると漏れる・・・考えたらどうでしょうか。
A) 具体的にはどういった症状が出てくるんでしょうか。
B) まず食べ物なり唾なりが気管の中に入っていくと、それを生体防御の上で出さなければならないですから、すごい咳が出ます。よく北海道では「はばける」という言い方をしますけれど、食事中にむせて、食べ物をブハッ!と吹き出すことです。北海道以外では分からないかもしれません。
A) あとは、どんなことが起こりますか?
B) 間違って侵入したものが大きければ窒息になってしまいます。致命的になり得ます。
A) 重大な事になる可能性もあるということですね。

センター長  2019/06/09(Sun) 09:02:57
誤嚥の仕組みと予防(1)
札幌には、三角山放送局というFMラジオ局があります。ここで毎月2回、医学ひとくち講座という番組が放送されており、何度か話をしました。私としては初めての体験でした。まず病院内でインタビュー形式で話をして、局の人が編集します。この稿は最初の放送分(2017/1/26)からですが、冗長部分は省き、足りない部分は補って再現しました。自分自身が気付かなかった口癖があり適度に略してます。Aはインタビュアーです。この方は聞き方が上手で、途中で入る合いの手も心地良く緊張症の私も驚くほど楽しかったことを覚えています。

A) 今日も医学ひとくち講座の時間です。三角山放送局がお送りします。今日は誤嚥の仕組みと予防についてです。誤嚥というのは飲み込みに関することですね。
B) そうですね。本来入って行っちゃだめなところに、唾なり食べ物が入って行くことを、誤った嚥下、誤嚥と言うのですね。
A) まず、誤嚥の話の前に、面白いお話があるということですが・・・。
B) はい、皆さんの興味を引きそうなところからです。私、野球のことはあまり詳しくないですが、ヤクルトのマスコットはスワローズということで、ツバメなんですね。ヤクルト・スワローズ。英語のスワロー(swallow)というのは「飲み込む」という意味があるんです。
A) そこから来てるんですか?
B) 誰がマスコットにツバメを選んだかという歴史は分からないのですが、「ヤクルトを飲む」というのと、「ヤクルトのツバメ」という事が見事に組み合わさっている面白いマスコットだと思います。
A) なるほど、スワロー、飲み込み・・・ということなのですね。そういえば、誤嚥(ごえん)の「えん」とは、つばめ(燕)っていう漢字ですね。
B) そうなんですよ。これは英語が語源なのか、漢字が語源なのか分からないのですが、奇妙なことに「嚥下」の「嚥」は、口編にツバメ(燕)って書くんですね。面白いんですよ。
A) 辿って行くともしかしたら、色々あるのかもしれませんね。
B) そうですね、さらにですね、水泳の飛び込み方にスワローダイブとかスワンダイブというのがあります。両手を大きく広げて真っ逆さまに水面に飛び込むのだそうです。



北海道ではあまり見かけないものですから、ツバメがどういう飛び方をするのか知らないのですが、ひょっとすると真っ逆さまに、急降下してくるのかもしれません。そうであれば、食べ物が食道を落ちていくという「嚥下」と関係あるかもしれません。

センター長  2019/06/08(Sat) 22:10:50
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