病院長あいさつ

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老人症候群(要看護・介護老年病症候群)について

病院長

老人症候群とはどういった病気ですか?
私たち人間は地球上の全ての生物同様、加齢により全身諸臓器の機能が徐々に低下し、さまざまな疾患を複合しておこします。結果、基礎疾患のいかんを問わず要看護・介護老年病患者さんに特有な能力障害としての病態が出現してきます。これらのいくつかの病態の総称を老人症候群とよんでいます。しかし、医学でいう老人(65歳以上)の約85%は、たとえ疾患を持っていても生活上は自立した元気老人ですから老人症候群というのはふさわしい表現とはいえず、正しくは要看護・介護老年病症候群とよぶべきものでしょう。老人症候群がなぜ重要問題かといいますと、人間を生活者として見たとき、生活の自立を妨げ、人間らしさ・生命・生活の質を著しく損ねる病態であると同時に、看護・介護の立場から見ても、最も負担度の大きな病態といえるからなのです。老人症候群の内容は、過去多くの医学者が提唱していますが、その代表的なものを図1-(1)、(2)に示します。当院ではこれらの病態を正しく診断、評価するためには医学的総合機能評価(後に詳述)という方法を実践することが重要と考え、1993年以来、米国で開発されたMDS(エムディーエス)という評価方式を採用・実践していますが、その結果から最も高頻度でみられる病態の上位1位から5位までが表1です。ですから、私は老人症候群のまとめは図1-(3)に示すものであると提唱しております。

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【図1】老人性症候群(実は要看護・介護老年病床症候群)

原因となる疾患にはどのようなものがあるのですか?
表2に当院での原因疾患を示します。これら原因疾患の頻度は地域により多少の差はあるかもしれませんが、上位4疾患は日本全体で見ても、21世紀前半ではおそらく変わることがないと思われます。
【表1】RAPs領域別人数および出現率内訳
  RAPs領域 該当人数 出現率
1 痴呆 726人 79.3%
2 栄養状態 722人 78.8%
3 身体機能(ADL)とリハビリテーション 708人 77.3%
4 失禁 597人 65.2%
5 転倒 597人 65.2%
【表2】主要基礎疾患(西円山病院 1999年4月)
疫病項目 患者数(人) 比率(%)
脳血管疾患 565人 60.7
痴呆性疾患 119人 12.8
骨関節系疾患 67人 7.2
パーキンソン病 48人 4.6
その他 125人 10.5
予防のために気をつけるべきことは何ですか?
アルツハイマー型痴呆、パーキンソン病は未だ原因療法がありませんので、確たる予防法を示すことは困難です。しかし、脳血管障害と骨・関節疾患には大切な予防対策があります。前者は脳動脈硬化症を基盤として起こるものですから、動脈硬化を促進する高血圧症、糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙、ストレスなどの早期発見と治療継続に尽きると思います。後者は、その基盤となる骨粗鬆症の早期発見と治療継続が重要な予防策です。そして、いずれの基礎疾患とも、発病しても10年余は特有の自覚症状の見られないという危険性と、治療管理上、薬物療法が最大の効果を発揮するためには生活習慣、特に食事・運動・知的活動への取り組みが前提として大切であることの2点を知っておくべきです。なぜならば、われわれ人間がお猿から進化したのはまさに直立歩行(ホモ・エレクトス)のヒトと考えるヒト(ホモ・サピエンス)になったからです。
老人症候群の医療で大切なことはなんですか?
世界保健機構(WHO)では、疾患が生活に与える影響を図2のようにまとめています。一般の病院では疾患診断と治療にあたるので、機能・形態障害までが通常の仕事です。しかし、老人症候群を有する老年病患者さんやご家族にとっては、生活者としての立場から能力障害や社会的自立こそが問題になります。高齢社会では老人症候群患者さんの生活をどう支えるかが、医療と福祉の抱える切実な課題となります。したがって医療現場でもこの3つの障害を含めた全体評価することが必要になります。老年医学的総合評価はこうした背景を基盤として必要性が強調されてきたものであり、前述のMDSもその手法のひとつです。また既存の医学研究(主にリハビリテーション医学、精神医学、社会医学など)で開発された各種の評価尺度(表3)を組み合わせて用いることも可能であり、重要です。そしてもうひとつ重要なことは総合機能評価導入・実践と結果に基づく治療計画(ケアプラン)の策定と実行は医師・看護・介護職のみでは実践不可能で、栄養士、薬剤師、検査(レントゲン、臨床検査)技師、リハビリ職、医療ソーシャルワーカー、事務職をも含めたチームがあり、そしてさらに患者さんやご家族もその中に参加していただくことで初めて可能になるのです。(図3)

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【図2】疾患と生活自立障害

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【図3】高齢者医療の概念と実践

【表3】老年医学的総合評価の領域
1.日常生活機能 ADL:起居動作、手洗い、食事、更衣、整容、入浴
IADL:買い物、家計、電話、薬の管理、旅行、社会活動
2.精神機能 認知機能:長谷川式スケール、minimental stateなど
情緒:geriatric depression scaleなど
3. 社会的因子 住居、家族との交流、経済、親族離別など

最後に「病院」といえばみな同じものと考えていていい時代は終わりを告げつつあります。病院の機能の特色をよく調べ、病院を上手に利用し、すこや かな老年期の健康維持にお役立て下さい。「人間が大切にされない社会では人間相手の仕事は評価されず、人間相手の仕事が評価されない社会では人間は大切にされない」(H・E・シゲリスト1891~1957)の言葉にて挨拶とさせていただきます。